「好き」はそれ一つでは成り立たない。
向き合いたいと思い、
悲しみに涙し、
喜びを知って、
悔しさに一人打ち拉がれる。
嬉しさに心躍り、
自己嫌悪に苛まれ、
穏やかさに安心して、
手放し難さを思い知る。
だから「好き」と呼べる。
全部ひっくるめて「好き」が成り立つ。
忙しなく心突き動かされ、
目まぐるしく呼吸を奪われ、
一秒より速く感情が波立ち鬩ぎ合う。
もっと合理的に「好き」を選別出来たなら。
リスクとリターンに天秤に掛けて
もっと理性的に「好き」を統制出来たなら、
自制する事が出来たなら、
きっとこれ程、「好き」を思い知る事はない。
逆行する思いがあるからこそ、
覚悟を問われるからこそ、
いつだって順境ではいられないからこそ、
手放せない想いに、
自分の芯を思い知る。
手放したくない掌に、
自分の信念を嫌と言うほど痛感する。
痛みがないと、幸せすら実感出来ない。
「好き」って、きっとそんな生半可なものじゃない。
「好き」なんて、きっと思うほど綺麗なものではいられない。
汚れても良いから傍にいたい。
痛くて良いから掴んでいたい。
「好き」は、きっと譲れないもの。
今何を差し置いたとしても、
どれに犠牲を払っても、
起こしたい行動があって、
伝えたい言葉があって、
届けたい想いが存在する。
心の芯は譲れない。
正論だけではいられない。
理屈のままでは納得出来ない。
物分かりが良い侭引き下がれる程潔くはなれないし
利口な二者択一ばかり選べる程賢くなんていられない。
リスクも傷みも忠告も
どんな世間的常識も一般論も
これまで自分を守り導いて来た、
あらゆる経験値も体験談も、
それらを全部押し退けて、おこがましくも図々しい、たった一言に掻き消される。
「そんな事、もう全部分かってる」
そのたった一言で
理路整然とした常識も
理屈や道理の正しさも
いとも容易く覆る。
二の句も継げぬ程打ち消していく。
物分かりが良い侭ではいられない。
利口な侭ではいられない。
「好き」なんて、
やっぱりそんな綺麗なだけではいられない。
