その人は【自己愛】と【他者愛】と言う言葉を頻繁に引用する方だった。
「会いたいと言ったら困りますか」
その問いの答えとして、
その人は私を迎えに来てくれた。
そしてこうも言って私を嗜めた。
「会いたいのは自分の寂しさを埋める為であって、
それは俺の為じゃなくお前の為だ」と。
ぐうの音も出ない。
優しく諭す様に、冷静に私の心を裂いた言葉。
完全に的を射ていて、
余す事無く心理を突いた言葉だった。
会いたかった。
その単純な一言に行き着く迄にびっしりと敷き詰められた回路の層には、
自分の寂しさと苦しさと心許無さが沈んでいて、
その根本に居たのがその人だった。
確かにそれは私の為で
私の気持ちが第一で
私が何よりの優先事項で
私の気持ちを癒す為に行き着いた言葉だった。
最終手段の言葉だった。
「会いたい」なんて、
その人に出会うまで、そんな言葉使った事無かった。
初めて使う言葉だった。
自分には無い言葉だった。
無理に型へ押し込んで、胸を潰しながら選んだ一言だった。
その人の性格を考えれば必然のリアクションで
それは予想でも予測でも無く、只の答えで確定事項だった。
避けて通れない未来だった。
その光景を頭の裏で描きながら
どこかでそれを覚悟して
その言葉の先にある未来を確かに見ていた。
それでも水を差す余裕が無かった。
選ばない選択肢を揉み消した。
水差す言葉を弾き余白を無くして人を変にしてしまうのが恋で。
それを言うなら、私は確実に変だった。
その人に言わせれば、自己愛の塊だった。
あの人の言葉を使うなら、大切な人の時間を奪った。
でもそれなら、
一体何をどうすれば、時間を捧げる事が出来たんですか。
共有する事が出来たんですか。